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構造安全性を確保し、その上での豊かなデザインを心がけている建築設計事務所です。

Kenichi Kurihara architect office

構造計算書偽造問題COUNTERFEITING

構造計算書偽造問題に関する当事務所の見解  2005.12.21


 本件問題に関し、建築士として又建築設計に関わるものとして考えを示したい。TV、新聞等の報道内容は必ずしも正しいとはいえない部分もあり、特に建築関係者以外の一般の方々へ極力正しくご理解いただきたく事が重要であると判断し、アドバイスとなりうるような点を含め見解としてまとめた。

見解全文
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過去に当事務所で設計・工事監理をさせていただいた建築主の方々へ
「計算書偽造」は「未必の故意」による大量殺人未遂と言ってもよい大罪
責任の所在について→設計責任は設計図書に記名捺印の建築士にあり
民間検査機関→ 行政も同じで、現行制度下では虚偽見抜くは無理
国の責任 → 現実に即さない現行制度改正の進言に、長年答えず
「計算書偽造」は氷山の一角ではなく、他にはまずないと考える理由は…
以前から存在の「震度5強で倒壊の可能性ある建物」はこのままでよいのか…
チェック機能の工事監理 → この制度が認知されていないのも大問題
TV等報道番組中の発言、説明への疑問と建築界の実情


見解を述べる栗原の立場について

 ■総合的建築士である。
  =構造、設備専門ではなく、構造、設備、意匠を総合的に取りまとめる役割

 ■設計事務所の代表である。
  =報道でのいわゆる「元請事務所」の代表。法的には開設者兼管理建築士。
   ただし、構造事務所から仕事を請けることもあり、この場合は下請け。

 ■建築士事務所を対象とする公的なセミナーの講師であった。
  =設計事務所の開設者兼管理建築士に対し、業務規範的内容指導の経験あり。

1. 過去に当事務所で設計・工事監理をさせていただいた建築主の方々へ

 言うまでも無く、当事務所は構造重視の設計や工事監理の重要性を主張してきており、建築主の方から工事監理を含めて直接業務の依頼を受けた物件に関しては法定の耐震性は十分に満足しているものと確信しています。建築主の方からの要望によっては、法定基準を上回る耐震性を確保して設計された場合もあります。

 ほとんどの建築主の方はご記憶があるものと思いますが、当事務所ではパートナーを組んでいる構造担当建築士と共に打合せに伺っておりますので、誰が設計をしているのか、誰が構造計算を行っておるのかを実際に顔を見ていただき、知っていただいておりますので、安心していただいているものと思います。
 まして、計算書等の偽造というのは論外で言うまでもないものと考えます。
 なお、計算書は原則として法定期間(5年)にかかわらず長期保存しております。

関連サイト:コンセプトと特徴

2.序論/「計算書偽造」は「未必の故意」による大量殺人未遂と言ってもよい大罪

 建築士は市民の生命安全の確保に関わる重要な責任ある職業だという認識と使命感を常に持っていなくてはならない。私や周辺の建築士は、大地震が発生した際、自ら設計した建物が損壊すれば、多数の人々の生命を奪い膨大な経済的な損失も与えるようなことになりかねないと常々思いながら仕事に当たっている。

 よって、構造計算書を偽造するということは言語道断、ある意味で「未必の故意」による大量殺人未遂犯と言ってもよいほどの重罪人と考える。経営コンサルタント会社等を中心としたある種の組織的なもくろみの可能性についての報道もあり今後の成り行きを見守らなくてはならない。計算書改竄はそのような関係の中で「圧力を受けた」等の発言あるが、関係ない。我々も、常にコストダウンへの要求をうけているが、建築士にとってそれは改竄の理由にならない。

 姉歯氏は想像力(イマジネーション)が決定的に欠如していたとしか思えない。これらの偽造により重大な問題が発生することは十分に予見できたはずで、だからこそ今まで誰もそのような「利が無くその割に影響のあまりに大きい危険なこと」を行うものはなかった。まして、証拠の残る偽造(制度として構造計算書は半永久的に書類として残る物)はいずれ発覚する。現に発覚した。

 地震がきてもこなくてもいずれ発覚し、発覚すればとても対応できない巨額の損害賠償を請求されるようになるという簡単に導き出される結果をなぜ、想像できなかったのか、最近の世の中の事件はこのイマジネーションの無さによるものが多い。
  

3.責任の所在について→設計責任は設計図書に記名捺印の建築士にあり

 報道では、「責任の擦り付け合い」という表現がなされている。しかし、責任ははっきりしている。大きく不動産販売の責任と設計行為上の責任とに分けて考えるべきで、それらは独立したものであり、誰が一番責任あるのかと割合で考えるべきではない。

 A.販売責任 → 不動産の販売主は、無過失でも瑕疵があれば責任を負う。

 今回の販売会社自身はこれを認めている。販売会社が意図的に法令を無視した建物を建築したのではないという前提で述べれば、無過失でも瑕疵があれば責任を負わなえればならないのだからこそ、慎重に、慎重に企画を進め、構造体など後で手をつけられない部分の品質確保に最大限の注意を払わなければならなかった。なのに、それを担当する設計事務所の選定や待遇を軽視していたのであろう)。販売会社の危機管理意識が低かったとも言える。なお、ここでは、建築士の責任は直接関係ない。(ミスや改竄がある無しに関わらず販売主が全責任を負う)


 B.設計責任 → 通常は元請設計事務所に全責任がある。

 現在報道では、この元請事務所の責任を論じることが少ないように思えるが、実はこの責任が重大である。「建築士法」等が現実の分業システムという実態と乖離している点は問題ではあるが、それでも現在の法律では、設計者がまず設計の全責任を負うこととなっている。(設計の依頼主の了承の元複数の建築士で分業することはできる。当事務所はこの方式を採用し、構造部分は別の建築士にも記名押印してもらい、責任分担を明確にしているが、このような例は稀)

 ある一定規模の建物の設計には資格を要し、通常は1人の建築士が設計図書(構造計算書含む)に名前と資格を表記し押印する。現状は、当テクトプランのような意匠事務所(又は総合事務所)が設計責任者として設計全般のとりまとめにあたり、この押印する建築士にあたる。そして構造や設備を外注することが多く、外注先は資格のある建築士だけでなく無資格の技術者に依頼することもある。

 全設計責任を負う建築士は、たとえ外注しようしまいが適法で適切な設計(適法であっても適切でない設計もあるので)を行う責任がある。(この責任は、職能や一級建築士としての責任の他、契約書の存在にかかわらず業務の依頼を受け報酬を受ける実態は請負契約となり民事上の責任もある)だから、元請事務所は技術的に自分でカバー出来ない分野の外注は安易には行えない。相当に信頼性の持てる技術者(技術的だけでなく、人間性としても)を選定しなければならないし、その依頼業務が適正に行われるよう管理しなくてはならないのだから、今回はこの部分の責任を果たせなかったということになり、責任は重大である。(自殺されたとされる設計事務所所長はそれを認識していたのであろう)

 外注しても、いや、外注するからこそ、任せっぱなしにするのでなく適切な設計であるように神経を使わなければならない。任せっぱなしにするということは、外注先の構造技術者と「心中する」位の意識で無ければならないが、この点において、多くの建築士は認識が甘いといえる。設計事務所向けの公的な講習会の際、講師として設計者の押印の安易さ(実際に設計した建築士が押印すべきところ、事務所の管理建築士という立場の建築氏名を機械的に表記、押印している実態がある。)を指摘してきたが、まだ、無頓着な事務所が多いように思える。

 なお、構造計算を下請けでおこなった者が建築士の資格を持ったものであるかどうかで責任の所在が異なる。建築士であるなら、元請事務所の責任にかかわらず、建築士として意図的に法を犯したのであり最も重大な責任を負う。建築士でないとしたら、無資格で設計を行った点は攻められるが、資格上の責任は問えない。元請事務所の建築士が、その責任の下構造計算を手伝わせたという場合は、もちろん元請事務所の責任となる。


 C.民間検査機関の責任→ 行政も同じで、現行制度下では虚偽見抜くは無理

 民間検査機関の責任も取りざたされている。審査機関の行為の正当性について判断をできる立場や情報をもっていないが、建築士の立場からすると今回の件で我々が民間検査機関の責任を追及するという意識はない。申請書の作成は設計事務所の全責任において作成し、ミスがあれば我々が悪く、検査者にはこちらから謝らなければならないと思っている。販売会社が声高に民間検査機関の責任を云々していることには違和感を覚える。また、行政の審査も実態はほぼ同様で、今回事件発生直後、知人からの質問に対して「偽造書類」をパスさせることは役所でも起こりうると回答したが、その予見は結果として的中した。

 今の制度では法令に関する幾つかのチェックポイントを重点的に審査するのが実情で、図面や書類にミスはあるかもしれないが「偽造」を行ってくるとは想定していない。今後も、構造審査に限らず偽造した書類を使えば、どこの役所でも審査を通ってしまうだろう。
 ただし、検査機関が他の建築士から姉歯氏の構造設計図書等の異様さを指摘されたにもかかわらず放置していた点は大きな過失と言わざるをえない。


 D.国の責任 → 現実に即さない現行制度改正の進言に、長年答えず

 民間検査機関の偽造見逃しに関する監督責任やそもそも確認申請の審査を民間に開放してきたことについての非難が起きているが、建築士の立場からはそれらにはあまり同調できない。また、民間検査機関での審査は結局行政の審査とそう変わらなかったことが明らかになってきており、監督責任を追及することは難しいであろう。現行法下での確認審査の民間開放はそれなりの意義はあった。

 ただし、国土交通省は従来の行政と同じ方法での審査では民間検査機関が偽造を見抜けないことを判っていながらそれを表明しないことはおかしい。また、私が所属していた設計事務所の団体では、分業化している現実に即した業法制定を過去十数年にわたり建設省(国土交通省)に提言してきたが、なかなか聞き入れずに現在に至っている。これを放置してきた責任はある。



4.「計算書偽造」は氷山の一角ではなく、他にはまずないと考える理由は

 「構造計算書の偽造」は聞いたことがなく、今回の姉歯氏若しくはこれを画策したグループがらみの特異な事態で、氷山の一角ではないであろう。なぜなら、通常の建築士ならその使命感からまずしない。使命感が少なく利害に価値を置く人間でも、偽造して得る利益より自他共に与えるリスクがあまりに多いことを判っているから行わない。ただし、建築士の試験では人間性や使命感等を図ることはないので、このような行為が大量殺人と同等であるというイマジネーションが働かない建築士は1万人に1人くらいはいるかもしれない。
 しかし、現場での工事で後から見えなくなる証拠の残らない手抜き・不良工事は相当あるだろうが、理論的には永久に証拠が残る「構造計算書の偽造」はまずないと言ってよい。

  「偽造」は氷山の一角ではなく、「不良施工」は氷山の一角であろう。

 ※コンサルタント会社ぐるみの組織的不正の場合となれば、姉歯氏以外の違法建築士はまだ出てくる可能性はある。姉歯氏以外に計算書偽造した建築士がでてくるかが今後の大きなポイントと言える。12/19現在姉歯氏と同程度の単位面積あたりの鉄筋量で設計した設計事務所が登場してきたが、これに偽造が無いとすると、姉歯氏のみが技術力不足により対応できなかったわけで、圧力により計算書改竄したという事情は通じなくなる。この点は、時間が経てば検証結果がでてくるのでいずれ判明する。

5.以前から存在の「震度5強で倒壊の可能性ある建物」はこのままでよいのか…

 以前から、地震時の被害をイメージしてそれを恐れている私は、自らの設計ではデザインよりも耐震性重視を主張(当事務所HP等にてアピール)してきたし、既存の古いビルに関わり、かつその印象等から構造上の危険性を感じた場合は、建築士の良心と責務という観点からその所有・利用者等には耐震診断を進めてきた。(当事務所は通信会社局舎200棟以上診断実績あるが、まず診断費用の補助制度がある場合があるので各地の役所へ問合わせするように薦めている。しかし、はなはだ残念なのはなかなか実行に移してくれない現実がある。) 

 1981年の基準改正(新耐震)前の建物はまず、耐震性能が低い。また、それこそ欠陥建築問題を出すまでも無く、不良施工(意図的ではなく、無知や無理から結果として不適切な工事が発生してしまう現実があり、それを防ぐための工事監理が機能していないから)が多く、危険な建物は相当存在するものと推察する。今回の問題の特殊性から、「震度5強で倒れることの恐怖」が突然と話題になったが、従来からその存在が判っていたその可能性ある建物全てを対策の対象として取り上げるべき。

 関連サイト:コンセプトと特徴
       耐震診断業務
 

6. チェック機能の工事監理 → この制度が認知されていないのも大問題

 今回の件では、報道番組中に概念図や相関図が示されることが多いが、ほとんどが「工事監理」という業務や「工事監理者」という立場が抜け落ちている。「工事監理」とは設計図書とおりに施工されているかを建築士がチェックするもの。これが機能しているかどうかが実は建物の品質管理上重要なポイントになるのだが、報道でもこの点に触れないという状況が如何に認知されていないかを物語っている。今回は偽造された計算書により作成された構造図を基に工事の確認をおこなうということになるので、この「工事監理」では直接は今回の問題は解決できないことになるが、第3者的立場の建築士が工事監理を行っていたとしたら、何らかの展開があったかもしれない。

 本題からはずれるが、マンション購入の際に「工事監理者」より販売会社である建築主に提出されているはずの法令に基づく「工事監理者報告書(士法20条2項)」の閲覧を求め、これに速やかに応じてくれるかどうかも販売会社の認識度の判断材料の一つとなる。なお、自分で新築等をした場合、この書類が設計事務所や工務店から手元に届いてないということはおかしいということにもなる。
 
 関連サイト:工事監理→ 国土交通省の関連サイト
            → 栗原主宰の設計事務所アピールサイト

7. TV等報道番組中の発言、説明への疑問と建築界の実情

 ■TV等報道番組での説明や出席者の発言には正しいとは言えない点やいくつかの疑問がある。これは、建築そのものや建築設計界についての知識不足から来ることもある。揚げ足取りは避けたいが、誤った説明は一般の視聴者を混乱させることになるので正確な用語を用いたり、十分な下調べを願いたい。また、建築士が解説のため出演することがあるが、十分に説明の機会を与えられていないと感じることもある。登場した建築士の表現力不足の場合もあり、帰って不信感を増長させる結果をまねくこともある。
 このところは大分建築界の事情を正しく紹介してくれるようになったが、この点についても簡単に説明する。
 
 ■TV等報道番組中の発言・説明に対する指摘

1.鉄骨と鉄筋の取り違え(本来「鉄筋」を言うべきところが「鉄骨」と表現される例)

2.「計算書偽造は証拠が残らないからおこなったのだろう」という発言

 →計算書は建築主が最終的に保存する確認通知書に添付されており、建築主が
   廃棄しなければ永久に証拠が残る

3.「建築士等の業界団体は統一見解解を出すべき」という発言

 →問題発生後約1週間後の11月25日には建築関係3団体が共同会見し声明を発表済
  関連サイト:社団法人日本建築士事務所協会連合会の関連サイト 

4.民間検査機関に予め与えられていた役目以上のことを期待している点

 →これは、国民の感覚を代弁しているのだろうが、その発想は疑問。
  民間検査機関や行政が建築士の業務と同様の業務を2重に行うことはコストや
  エネルギーが無駄と言える。今後もこの方法で再発を防ぐのは疑問。
  本来、建築士がより責任を持って業務をおこなわなければならない。その体制を
  サポートする環境作りが急がれる。


 ■建築界の実

 実情全てを説明すると言うことではないが、今回問題に関連して一般の方に知っておいてほしい事項を説明する。(本項は、順次追加の予定)

設計事務所の立場と仕事
 ■自分で建物を建てる場合 
 本来は、建築主である個人や会社等が直接設計事務所に依頼することが最も良い。
 しかし、現実には設計と施工を一括で依頼することが多く、実際に設計に当たる建築士と接触しない場合もあり、これは好ましくない。また、この場合工事監理が適正に行われにくい。

 ■マンション購入の場合
 デベロッパーと呼ばれる販売会社がマンションの販売を企画すると、通常はこれらの会社が建築主となる。販売会社は通常設計や施工の外注先を数社抱えている。この場合、設計と施工を独立して委託する場合と施工会社に設計施工一括で発注する場合がある。設計の重要性を認識している販売会社は設計を設計事務所に直接依頼することが多い。いずれの場合でも、構造設計を更に分離して発注することはあまりない。

 実際に使用する購入者が建築主でなく、当然設計者や施工者を選定できないことがデメリットといえる。であるから、相当慎重に販売会社を選ばなければ、結果として不良品を購入してしまうことになる。「販売会社を選ぶ」とは、どういう施工を行っているかをチェックするということでいくつかの方法がある。



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